LHC加速された原子核同士を衝突させると、数千もの様々な粒子が生成されます。 それらの生成粒子を精密に測定することにより、我々の目的であるQGPの性質を明らかにすることが出来ます。 生成される粒子には、よく知られた陽子や中性子、電子、光子の他に、π中間子や ストレンジネス (s) 、チャーム ( c ), ボトム (b) といったクォークを含む中間子 (メソン)や重粒子(バリオン)などがあります。これら様々な粒子を幅広いエネルギー(運動量)領域 で測定する様、ALICE 実験はデザインされています。

 

 

ALICE 実験検出器の全体の大きさは、高さ・幅 16 m、 長さ 26 m あり、総重量は 10,000 トンもあります。 このALICE 実験検出器は大きく以下の3つの部分に分けられます

  • (1)衝突点付近を被うセントラルバレル (-0.9 < \eta < 0.9)
  • (2)前方方向のミュー粒子を測定するミューオンアーム (-4 < \eta < 2.5)
  • (3)衝突事象を選別するグローバル検出器

 

セントラルバレルには、マグネット (図中の赤い部分) の中に格納され、中には磁場 (0.5 テスラ) がかけられています。 生成された荷電粒子は、この磁場によってローレンツ力を受け、進路を曲げられます。 その曲がり具合(曲率)を測定することで、荷電粒子の運動量を測定します。

 

ITS (Inner Tracking System)

衝突点付近の最も内側には、 ITS (Inner Tracking System) 検出器が設置されています。これはシリコン 半導体検出器であり、荷電粒子の通過位置や粒子数、衝突点を測定します。また重クォーク中間子の崩壊点の測定や 衝突トリガーの形成などにも使われます。ITS は内側から、
SPD (Silicon Pixel Detector, 2層),
SDD (Silicon Drift Detector, 2層),
SSD (Silicon Strip Detector, 2層) の計6層から構成されており、SPD 検出器の位置分解能 (r-phi) は約 12 micron です。

 

TPC (Time Projection Chamber)

ITS の外側には、直径約 5 m、長さ約 5 m、のTPC (Time Projection Chamber) 検出器が あります。この検出器は ALICE の心臓部となる検出器で、荷電粒子の飛跡再構成、運動量測定、粒子識別 などを行います。内部は Ne, CO_2, N_2 (90% / 10% / 5%) のガスで満たされ、400 V/cm の電場 かけることで、荷電粒子の通過に伴って出来た電子をドリフトさせ、その電子の位置と時間情報から荷電粒子 の3次元飛跡を再構成します。 また TPD 内での荷電粒子のエネルギー損失を測定することにより、 荷電粒子識別が行います。

 

TOF (Time-of-Flight)

その外側にあるのが、飛行時間測定器 TOF (Time-of-Flight) です。TOF では、荷電粒子の 飛行時間を測定することで、粒子識別を行う検出器です。粒子識別には、飛行時間の他、飛行距離、 運動量の情報が必要ですが、それらは TPC 検出器から得られます。この TOF 検出器は複数の 高抵抗ガラスを組み合わせてた、Multi-Gap Resistive Plate Chamber (MRPC) という 近年開発された新しいタイプの飛行時間検出器です。固有時間分解能は、約 50 ピコ秒であり、 K 中間子とπ中間子を 1.5 GeV/c の運動量まで分離する事が可能です。

 

TRD (Transition Radiation Detector)

TOF 検出器の外側には遷移放射検出器 TRD (Transition Radiation Detector) があります。 これは誘電率の異なる物質の境界面に速度の早い荷電粒子が通過すると、その粒子の進行方向に X線 (遷移放射光子) を発生することを利用し、電子を識別する検出器です。また高横運動量粒子の トリガーや電子のトリガー検出器としても使われます。

 

PHOS (PHOton Spectrometer)

PHOS は、鉛タングステン結晶 (PbWO_4) を用いた電磁カロリメータ検出器で、衝突で生成される 光子のエネルギーを高精度で測定する検出器です。衝突点から 460 cm の位置にあります。 3,584 本 鉛タングステン結晶を束ねて1つのスーパーモジュールを構成し、現在3つのスーパーモジュール、 全部で 10,752 の読み出しチャンネルがあります。光シグナルの読み出しには、アバランシェ・フォトダイオード (Avalanche Photodiode, APD) を用いています。PHOS は方位角にして 260°〜 320°(Δphi = 60°, 3 スーパーモジュール)、 Δη = 0.24 の領域カバーし、エネルギー分解能は ~3%/√E_gamma です。中性中間子からの崩壊光子 や直接光子のエネルギーを高精度で測定します。また高エネルギー光子のトリガー検出器としても使われます。

 

EMCal (Electo- Magnetic Calorimeter)

EMCal は、鉛の吸収体とシンチレータによる発光部が各々77層からなる、サンプリング型 電磁カロリメータ検出器です。光子および電子を識別し、それらのエネルギーを測定します。 被っている領域は, φ = 80°〜 187°(Δφ ~ 107°)、Δη = 1.4 です。 エネルギー分解能は ~10%/√E_gamma です。PHOS に比べてエネルギー分解能は悪いですが、 大きな領域をカバーし、高い運動量を持ったハドロン束であるジェットを測定することができます。 またダイジェットと呼ばれる 180°反対方向(方位角)に対生成されるジェットを捉えるため、EMCal と同じ構造をもった DCal (Di-jet Calorimeter) を製作し、2014年にインストールを完了しました。

 

HMPID, Muon trigger, Muon tracking/ID

その他、リングイメージチェレンコフ光を用いて高い運動量を持つ粒子識別をおこなう HMPID 検出器  (High Momentum Particle IDentification) や、主に重いクォークを持った中間子からの 崩壊ミュー粒子を捉えるミューオンアーム (Muon trigger, Muon tracking, Muon ID) 検出器が あります。

 

グローバル検出器

高エネルギーでの重イオン衝突では、いつも同じ衝突の仕方をするのではありません。 原子核は大きさを持っているので、衝突する原子核同士が正面衝突する場合もあれば、 周辺衝突するかすり衝突の場合もあります。これらの衝突事象を選別するために、 ALICE 検出器では様々なグローバル検出器が設置されています。中でも以下の3つの検出器、 VZERO, TZERO, ZDC, FMD がグローバル検出器として使われます。

 

 

 

 

VZERO検出器は、32のシンチレーションカウンターの列を2列、計64個、ビームパイプ周辺に 並べた構造をしています。衝突点を左右に分けると、A側 (A-side) と C側 (C-side) に 分かれますが、A側の VZERO-A は z = 3.3 m の位置に(2.8<η<5.1)、 C側の VZERO-C は z = −0.9 m (−3.7 < η < −1.7)の位置に設置されています。 VZER検出器では、衝突で発生した荷電粒子数を測定し、衝突事象の中心衝突度や 反応平面の決定、トリガーの形成などに使われます。

 

 

TZERO 検出器は、チェレンコフ検出器で衝突事象とタイムゼロ(基準となる時間)を与えます。 ZDC (Zero Degree Calorimeters) 検出器は、ハドロンカロリメータで、衝突に関与しなかった 中性子(spectator neutrons)を前方ラピディティー方向で測定します。 FMD 検出器は前方方向の粒子多重度を測定します。

 

ALICE 実験・日本グループ (ALICE-JAPAN) の寄与(検出器)

ALICE 実験・日本グループ (ALICE-JAPAN) では、以下のALICE 検出器の製作、 運用等に関わっています。

  • 広島大学:PHOS 検出器の製作、運用、データ較正
  • 東京大学:TRD 検出器の製作、運用、データ較正
  • 筑波大学:EMCal/ DCal 検出器の製作、運用、データ較正、(TRD 検出器の運用)

また ALICE 日本グループでは、ALICE 実験アップグレード計画に積極的に関わっています。広島大学と筑波大学では電磁カロリメータ、東京大学は前方方向カロリメータ(FOCAL) と GEM-TPCのアップグレード計画にそれぞれ参与しています。